とはいえ、近田が何に苛立
沖咖啡っているのか、喬允は分かっていた。彼は、喬允のような地味なやり方が気に食わないのだ。
どんな高名な医師でも所詮人間。多額の交際費に物を言わせた接待攻勢で落とすのが、一番手っ取り早いと考えていたし、そうすることで自分が管轄する営業所の業績を上げようと焦っていたのだ。
案の定、喬允に反論されたことで近田はさらにヒートアップした。顔を真っ赤にしてヒステリックに喚く。
「そういうことを言ってるんじゃない! さっさとテコ入れして採用の確約を取り付けろと言ってるんだ。それが君の仕事だろうが。臨床データはほぼ揃っている。そのほとんどが『著効』だと聞いているぞ」
「はい、仰る通りです」
淡々と返す喬允に苛立ちを隠さず、近田はずいと顔を寄せて、
「だったらもう、あとは接待でひたすらお願いするだけじゃないのか? 高級クラブを借り切ってもいい。そうだ、以前接待で使った京都の料
Nespresso咖啡機亭は評判が良かったぞ。あそこは美人の芸妓をたくさん抱えているからな」
「いえ、何度かお会いした印象ですが、福山ドクターは宴席や女性のいるお店など、騒がしい場所はお嫌いのようです。お酒もあまりお召しにならないとか……」
「君はまだまだ経験不足だな。そう言って接待嫌いを誇示する医者に限って、本音は誘って欲しくて仕方ないんだよ。特に大学病院の外科部長ともなれば、相応のプライドもあるだろうからな。こっちがしつこく誘って、そこまき合ってやるかといった体裁を用意すればいいだけのことだ」
近田の言うことも一理あった。確かに“隠れ接待好き”とも呼ぶべき医者はいる。しかし喬允は、福山医師は違うと感じていた。
彼には、自分を良く見せたいという色気が全く感じられない。お世辞にも愛想がいいとは言えないが、その純朴で飾らない人柄に喬允は親近感を持っていたのだ。
だから彼が「騒がしい場所での接待
護肝は嫌いだ」と言ったら、それは言葉通りに違いない。しかし、女性がお酌をしてくれる場所で高い酒を飲むのが嫌いな男なんているはずない、という固定観念の塊である近田には、何を言っても通用しないだろう。